客観的データを取得しづらく、文字ばかりですみません。

逆子

 3,4回くらい臨床経験があります。わりと直ぐに正常になり、いずれも元気な子が生まれました。

 逆子を古典的な説明で申しますと、上にあるものが下にあり、下にあるものが上にあるという陰陽逆転の現象です。思考や視点が逆さまになっていることあります。また婦人が夫より強く女系の家に多い傾向です。

【顕著な実例/30代女性3子目/妊娠9か月目、このままだと帝王切開とのこと】

 所見:静脈瘤痛みあり、四肢冷え、聞診は詰まりの匂い、舌診は血瘀(画像なし)、脈状はやや濇脈、六部定位脈診は肝虚証、経筋は左肝経と右肺経、右大腸経に筋緊張あり。血圧(施術前)-111/79,脈拍90

※静脈瘤の一部箇所、小陰唇にも静脈瘤あり。(小陰唇は肝経の流注)

《施術初回:2024年3月7日》

 上記の初見からすると、肝の疎肝理気や腎の補陽をするのも間違いではないと思われる。しかし筆者は脾虚がベースにあるタイプと推測。※理由は後述の考察より

 妊婦だけにリスクもある為、リスクの低い磁石(φ15mm×H0.5mm、表面磁束密度400ガウス)による経絡治療を試みた。

 左右の章門穴に磁気S極を当ててみたところ顕著な経絡現象が起こる。患者が左章門穴から右の方向へと気の流れを感じ、同時に胎動を確認、2,3分後には下肢も温まってきた。この初手で大きく変化したことが幸運だった(まぐれ笑)。N極だとどうなっていたかは検証できず。左右穴の違いも然りだが、左S極-右N極ではなかろうか。他にも肝(疎肝理気)のアプローチは考えていたが、初回施術ということもあり深追いは控えた。

 章門穴は足厥陰肝経上にあり、足少陽胆経とも交差し、脾の募穴に属し八会穴の臓会穴でもある。弁証穴性としては疎肝利胆健脾益胃など。臨床においては瀉法を用いることが多く、補法を用いることが少ない。※『臨床経穴学-東洋学術出版』より引用

 四肢の冷えから寒証として考え、復溜穴よりも太谿穴(腎の兪土原穴)に温灸(棒灸)を施した(体表観察においても妥当だと思われる)。しかし両手に発汗が見られたため(右太谿穴から始め、左太谿穴でも同じ現象だった)、これを誤診誤治と判断し、百会穴の温灸に切り替えた。百会穴の温灸は胎動を確認、適切と判断。

 百会穴は手の三陽経、厥陰肝経と督脈が合わさるポイントで別名を三陽五会ともいわれる。督脈の病、神志病、および肝火、肝陽、肝風上擾などを治療する時に用いられる(平肝熄風)。また気虚下陥で昇陽益気・昇揚作用を目的とした常用穴でもある。※『臨床経穴学-東洋学術出版』より引用

 他、軽めに手技を施して施術を終了。※手技は触診も含んだ治療。

 漢方においては桂枝茯苓丸通道散などを考えたが、6日後に医師の検診があるため結果を待つことにした。

 血圧(施術後)108/77-脈拍76、肝虚証の脈は平に近くなった。脈拍が下がったが、自然な変化として良し悪しを評価せず。(※妊婦は一般的に数脈である)

《施術2回目:2024年3月14日》

 ・前回の後、翌朝まで足先が温かったとのこと◎

 ・昨日の検診で70°くらい頭が下向きになった◎(逆子が正常になった)

 ・聞診による詰まりの匂いが軽減されている◎

 ・舌診は血瘀(大きく変わらず)

 ・脈状はやや濇脈(大きく変わらず)

 ・六部定位脈診は肝虚証

 ・血圧(施術前)-115/82,脈拍91

 今回も医師の邪魔をしないように無難に無難にと、前回と同様な施術内容にした。

 初回に見られた磁気による大きな経絡現象はもう起きなかった。(それだけ良くなったと解釈)

 百会穴の温灸は再現性高く、よく胎動した◎。(胎動が必ずしも良しとするのは早計かもしれないが)

 血圧(施術後)110-79,脈拍80

《施術3回目:2024年3月21日》

・顎周りがスッキリしてきたと周りに言われる◎

・睡眠がよく取れるようになったとのこと◎

・股間にある静脈瘤が緩和してきているとのこと◎

・聞診において、詰まりの匂いがかなり軽減されている◎

・舌診は血瘀だが少しだけ緩和したか?(画像なくてすみません)

・脈状は濇脈だが緩和してきているような印象

・六部定位脈診は肝虚証に近い

・四肢の冷えが改善してきている

 3回目の観察にして施術の方向性は凡そ正しいと判断した。4回目では百会穴の温灸で手に発汗が見られたため(太谿穴の温灸時と同じ現象)、百会の昇揚作用により気陥が回復して四肢の冷えも自然と改善してきたと解釈。百会の温灸はそれ以降行わなかった。ここから出産までに週1回程度のペースで施術を行い、逆子になることはなかった。陰部静脈瘤については桂枝茯苓丸の投薬を医師に提案するか最後まで迷った。漢方薬を用いずに普段の食事で調整することにし、静脈瘤が左のみに出現していることから左右の気の偏在(筋緊張)を調整するような方向で出産を迎えることにした。結局陰部静脈瘤は完全に治ることが出来ず、帝王切開を奨める副担当医師の検診もあったが、主担当の医師はこれくらいなら平気であると最終的には帝王切開をすることなく、患者の望み通り無事に自然分娩にて元気な子を出産した。予後も順調に回復し、赤子もすくすくと成長している。

【総評】初手に章門を配穴したことが大きく勝利に近づいた。次の一手に太谿の温灸は誤診誤治であったが、直ぐに百会の温灸に切り替えて軌道修正できたのも勝利に貢献できた。後に百会の温灸も過剰反応が出た為、陰部静脈瘤、下肢静脈瘤の治療へ集中することにしたが、症状の緩和はしたものの治りきらずといったところがまだ未熟といえよう。しかしながら妊婦に対するリスクを配慮しながら患者の望み通りの結果になった事に胸を撫で下ろした。また後の考察でより良い最適解を求めるための良い臨床経験となった。

【考察1】なぜ章門で好転したのか、なぜ太谿が不適切で百会が適切であったかについての具体的な説明は長くなるので割愛したいところだが、患者の状態が程よく落ち着いたときに画像にある静脈瘤を思い切って瀉血を試みたことがある。すると経絡治療、温灸と同様の胎動を確認。その後の経過観察をしたところ、静脈瘤は緩和した面はあったが、日常の掃除の際に埃を吸ったようで鼻詰まりを起こしている。当然、肺経の調整などで鼻詰まりは緩和していくが、肝実を瀉血で瀉したものの、その分肺実に替わっただけである。つまり肝実肺虚から肝虚肺実のようなエネルギー移転されただけで邪気量は抜けきっていないように筆者は見えた。気機の異常は肺ー脾ー肝であることから(中医学基礎理論)、肝肺は左右東西の天秤でしかなく、支柱となる中央の脾の正気を養うことが最適解ではなかろうか。似たような経験は何度か遭遇したことがあった為、故に脾気虚、下陥(気陥)に相応しい百会穴の温補が好反応を示したということである。たらればの話にはなるが、章門の経絡治療を行わなければ太谿の温灸は効いていたかもしれない。当然、その後の戦略は変わってくるが、結果は同じではないかと思われる。

 元より筆者はこの患者を脾虚証がベースになっていると睨んでいた。所謂、先天的な性質というのをインスピレーションで感じ取っていたわけであるが、患者の母親から娘(患者)は少女の頃からやや痩せ型で貧血もあり、初産では母乳の出も悪かったという脾臓の弱さについて情報を引き出した。勿論、臨床においては主観やインスピレーション、または一部の情報で決めつけることは危険な診断になりかねない。だが筆者は初めの所見において右足が外反母趾になっており脾経の異常を認識していた為、後の母親からのお話で脾気虚と合致した。※筆者は片方のみの外反母趾と両方の外反母趾とではまた違った区別をしている。

【考察2】望診で脾気虚には見えづらい少しふっくらとした妊婦の姿を目の当たりにし、表面に出ている症状は肝経上にある静脈瘤や血瘀という実証である。それに反し六部定位脈診は肝虚証を示しており、弁証論治の虚実と六部定位脈診の虚実が一致していない。なので一部の流派にある六部定位脈診(脈診流・難経六十九難)の診断を優先すると的外れな治療になっているのではないかと思われる(肝虚証は曲泉と陰谷の配穴になる)。悪くはならないが良くもならないというもので、筆者が試みた肝経の瀉血も同様である。一昔の筆者であれば鼻詰まりという事象を肺の実証として取り扱わずまたは気に留めず、瀉血により表面的に表れていた静脈瘤が緩和したところを見て正しく治癒した気でいたかもしれない。しかし診断力は圧倒的な総合判断が求められ、その精度が高いほど最適解を得られる確率も上がり、患者にとってより良い状態に導くことができるであろう。故に筆者は必要とする場合のみ、命運鑑定や観相術を活用しており、より相手の性質を肌で感じる訓練をしている。

【考察3】漢方薬の選定についてであるが、静脈瘤において桂枝茯苓丸などで活血駆瘀をしても良いが、章門穴と百会穴の反応や考察2から再考すると四君子湯をベースとした処方が功を奏する可能性が高いのではないか。出産後も先天的なベースとなる体質は変わらないことが殆どなので、彼女に機会があれば四君子湯や人参湯などによる経過観察を試みたい。

【病の伝染・機序まとめ】脾気虚がベースとなっており、気虚から気陥にもなっていたと思われる。次第に脾による血の生成が低下して血虚となり気血両虚・脾陽虚に進行、気血の不足から温煦作用が失われ腎陽にまで及び脾腎陽虚となる(四肢の冷え)。ここまでならまだ良いが、陽虚によって活動が鈍くなり凝滞性が増して血瘀となった(静脈瘤)。

【最後に】静脈瘤は妊娠してから発現しておりしばしば見かける現象だが、気虚或いは気血両虚の陽虚体質で妊娠したということは何かしらの生命力によるものだろうか。また筆者の診断治療が必ずしも正しいわけでもなく、ほんの一例であることに参考にしていただきたい。むしろ異なる意見や見識を受けてもっと上手になりたい。

 このケースは訪問型で自宅に伺う施術でした。初手の磁気による経絡治療を施した直後に、”ガタン”と物音がしたことを覚えています。患者は「普段動かないのに・・・」と仰っていましたが、私は直感的に正解と思い、そのまま続けていたら経絡現象が起きて状況が好転していきました。

 臨床においてはこういった不可思議なことが起きたりすることがまぁまぁあります。胎児が正にソレが欲しいと言わんばかりのような出来事でした。今思うと何だか初めから決まっていたような気もします。